_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_

政権交代の皮肉       平成二十二年七月上旬    塚本三郎

 一民主党八カ月の悪夢

(a) 権力は理性を消滅させる

自民党に対して多数横暴、審議軽視、強行採決と、民党は、結党以来叫び続けて来た。ところが、民主党が与党となり、僅か半年を経ずして、自民党をもしのぐ、審議軽視と強行採決であった。

 例えば郵政法案は、小泉内閣が、百時間余をかけて成立せしめた。その法律を否定するための案を、民主党は、衆議院で僅か六時間で強行採決してしまった。日本の議会史上類例がない。しかも、その案を、民主党の都合によって、参議院の審議にもかけず、突然廃案にする暴挙に出た。早く議会を閉じるために。

 党利、党略のためには、法律案までも、国会軽視、国民無視である。議会で多数を占め、政権を握れば、「天下は俺たちのもの」との勘違いが露骨である。

(b) 財源無視のバラマキ福祉

  衆議院選挙に向けて民主党はマニフェスト(公約)として、大衆の悦びそうな政策を次々と打ち出した。曰く、子供手当て・月額一人二万六千円、高校授業料無料化、高速道路無料化等々。政党は、自らが政権を担当すれば、実施したい政策は沢山在る。

だが何れも、その為の財源を無視すれば、結局は借金の上積みとなり、そのツケは次の世代に背負わせることになる。

政府、及び外郭団体の年間支出資金は約二百兆円である。そのうち一〇%(二十兆円)の無駄があるから。それを充当すると公約した。実際、「事業仕分け」なる派手な「劇場政治」をやってみても、結果は公約の二十分の一の一兆円にも達しなかった。財源見通しのない福祉政策を公約することは、政党が国民に対しての詐欺ではないか。

(c) 米国と対等外交の矛盾

  自国の防衛力を否定し、独立国として、最重要条件をも、米国に依存しているのが日本である。防衛力及び他国からの侵略の抑止力を否定した憲法を擁護し、米国に安全を依存しながら、米国の被保護国の日本が、対等を叫ぶのは矛盾も甚だしい。

我々は、まず自国の防衛力、即ち国力にふさわしい力を整備して、足らない処を補うため、日米同盟を活用する。そして「集団的自衛権」を認める、と宣言すべきだ。

対等となるための、条件を主張し実行するのでなければ、独りよがりの勝手な議論だ。

防衛力を否定する国が、対等の外交を主張するのは、周辺の軍事情勢に無知をさらけ

出しているか、或いは侵略者に迎合する、危険な思想である。

それは同盟国に対しても背信行為で、近隣諸国からは嘲笑されるばかりだ。

(d) 官僚制打破と政治指導

  立法権と、人事権を持っている政治家が、行政官である官僚を支配することは当然だ。しかし、その地位に居ても、その能力と責任感がなければ、実行性が疑われる。残念なことは、政治家である国会議員が、その地位に値する能力を持っていないことである。

  政治家となるための選挙は、その人物の能力よりも、選挙に当選し易い、知名度が最優先とされて来た。民主政治の欠陥でもある。

 ならば、当選しても暫くの間は、国会議員として、その地位にふさわしい勉強を重ねることが不可欠だ。官僚は、高学歴の優秀な人材が多く居る。その上、就任以来、その省庁を筋に歩いて来たし、専門職は、超一流の人材であると思う。

  併し官僚は、勤めて来た省庁の専門職でも、国家全体を顧みる視野には疎いとみる。

  国会議員は、国家全体を高い視野に立ち、将来を見定め、その上、政党としての国家観の上に育てられているが故に、やがて官僚を活用、支配出来る。

  官僚は優秀であるがゆえに、政治家を活用する術を心得ている。その上、行政官として、政治家の指導能力と使命を承知している。

  ゆえに、自らが政治家になって、支配者たらんとする人材も少なくない。だが大部分の官僚は、分限を弁えて、政治家に協力することを任務としている。

  民主党は、その本質を弁えず、官僚の排除を断言したことによって、大きく傷付いた。その失政を重ねた結果、漸く、官僚は活用するものとの重大性を悟ったとみる。

?二?自民党政治へ回帰の菅総理

  鳩山政権の八カ月間は、一体何だったのか。

  昨年八月末の衆議院選挙の圧勝によって、民主党指導者が、権力の偉大な力の上にアグラをかき、その力に酔い、理性を失い、驕りとなったことは否定し得ない。

しかし、それだけではない。民主党の本質が露呈した。それは、野党暮らしの十年余に染み付いた、無責任な議会対策と、外交と防衛及び財政の認識が、結果として、出来もしない空想主義に走り過ぎたことであろう。

  政治は結果責任である。鳩山内閣は、史上最短任期で退場を余儀なくされた。

副総理の菅直人氏が政権を引き継いだ。菅新総理は、鳩山政権の副総理であり、しかも、その失政の数々に対して、一言の注意も指摘もせず、すべてを黙認してきた、否、賛同してきたとも言い得る。その点では鳩山政権「失政の共犯者」と酷評しても良い。

菅氏は、世渡り上手で、その道では天才的才能を持って、今日の地位に登り詰めた人である。鳩山政権の行き詰ったマニフェストを、事も無げに、平然と否定した。

  共犯者が、自らの責任を認めることなく、他人ごとの如く扱い、党が掲げた看板が、不人気であると承知したら、勝手に、世間受けの良い発言に変更する。結局、自民党政権と「殆ど変らない公約」に里帰りした。冷静に判断すれば、自民党の二番煎じである。

  谷垣自民総裁は、「民主党が擦り寄ってきた」ことで、参議院選挙の争点がなくなってきた、と口惜しがった。策略において菅氏のほうが一枚上らしい。

  菅氏はかつて「政策に行き詰ったり、スキャンダルによって、総理が、内閣総辞職を決めた場合は、与党内で、政権のたらいまわしをするのではなく、与党は、次の総理候補を決めたうえで衆議院を解散し、野党も、総理候補を明確にしたうえで選挙に挑むべきだろう」と宣託した。菅氏は、その発言を無視した。これも世渡りの術なのか。

?三?日本の政治にとって最重要課題は

(a)  憲法の改正が第一である。独立国でありながら非武装を明記した国はない。

改正の条件は三分の二の国会議員の発議に依るとある。それは不可能に近い。

 現憲法による改正を求めることは難しい。そのため、この憲法で明記されている

非武装に反して、防衛力の整備に、「正当防衛」という言い訳を付けて、渋々整備

して今日に至った。――私の暴言だが、致し方なく、まず現実の日本に合う新憲法

を制定し、現憲法を過半数で破棄する意外にはないと思う。

(b)  防衛力を整備して、独立国日本として、「自分のことは自分で守る」という責任

   感を、政治の舞台で示す必要がある。

 日本の周辺国には、領土的野心と共に、日本国民の経済的、科学的実力の資産を奪う為に、侵略の脅威を示している国が居ないとは言い切れない。

非武装はむしろ相手に犯意を誘う。ゆえに警戒心を怠ってはならない。核兵器をも保有して、その威力をひけらかしている国もある。 

従って、国力相応の防衛力を充実し、足らざる処を、米国との軍事同盟によって協力を求める必要がある。その為、集団的自衛権の行使を宣言すべきである。

厳然たる防備が在ってこそ、自主独立の外交、平和外交が成り立つ。

(c) 経済力の回復――経済の停滞で難局に直面している。強い経済、強い財政、強い福祉、の三大目標を菅新総理が力説した。財務大臣を務めたことで、直面する日本経済が、苦境に陥っている「問題点」を語ったとみる。

    問題は、どうしてその障壁を乗り越えるのか、その具体的対策が求められている。

 強い経済には、財政及び税制の支援が不可欠である。そのことは、逆に強い財政に逆行する恐れもある。まして、強い福祉は、更に財政を圧迫することになる。

 この三者をどう調和させるか。その具体策に自民党政権も苦悶し、莫大な財政赤字を積み重ねてしまった。右の三者の相対立する矛盾を解決する、具体策を持たなかった民主党の鳩山政権も、更に多くの国債と云う名の借金を積み重ねた。

強い経済力日本は、アジアのみならず世界的にも優秀な技術力と開発力、労働力を保有している。それゆえ、ふさわしい労賃のゆえに、生産の労働コストも、合理化にふさわしく、比較的高く支給している。そのことが、各企業が、低賃金を海外へ求め、企業の流出を促し、結果として、日本経済の空洞化を招きつつある。

    日本社会の急速な高齢化の為、福祉政策は、否応なく、財政の窮状化を余儀なくせしめる。そのため、消費税を「目的税」として増税に依存するのみで大丈夫なのか、自民党に呼応して、菅総理も、財政再建のため、民主党の党内議論なくして、世間受けする発言でよいのか。消費税の一〇%を口に出さざるを得なくなった。

(d) 教育勅語の魂――道徳心の荒廃は日本国にとって、最も憂慮すべき事態である。

 占領軍が、かつて日本政府に対して、教育勅語の破棄を命じたことを思い知らさ

れる。あの大東亜戦争で、戦力の劣る日本が、全世界を相手に四年余を、勇敢に戦ったのは、日本人の、一致団結した「大和魂、武士道」の精神に在る。

その根本が「教育勅語」に在るとみた。戦後の教育は、平和、自由、権利、平等の主張の名の下に、愛国心や、責任感や、義務の実行を怠り、解放された世界の風潮に流されて、日本的平穏な美風が蝕まれ、日本が日本ではなくなりつつある。

ゆえに再び教育勅語の精神を、あらゆる舞台で取り戻すことが、必須の要件である。それに対しても、政治家の資質の向上が不可欠で、時流に逆らっても、国家観を示す「勇気ある政治家の行動」が日本政界には求められている。

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